ホーム > WAZACANインタビュー > スペシャル > 24年ぶりの復活・時計修理職種
2011年11月18日、諏訪市のゆうむ25にて行われた第24回時計技能競技全国大会。長野技能五輪で復活開催される時計修理職種と同様の競技が行われたこの大会の取材を通して、時計修理職種とはどんな競技なのか?そして動画では、運営・主査委員補佐のセイコーエプソン竹岡一男さんと、長野大会に向けてすでに挑戦をはじめている育成選手たちの声をお届けしたいと思います。
1970年の第8回大会から1987年の第25回大会まで17回に渡って競技が行われてきた技能五輪全国大会「時計修理職種」。1977年(第23回オランダ・ユトレヒト大会)から新設された技能五輪国際大会「時計部門」(2年に1回開催)では、5人の金メダリストを輩出し、日本の独擅場となりましたが、参加者の減少から1987年を最後に技能五輪全国大会の競技職種から廃止となってしまいます。そこで「技能五輪の流れを途切れさせてはならない」と、技能五輪以降の時計技能者の技能向上の場として、翌1988年から毎年開催されるようになったのが時計技能競技全国大会です。
時計専門学校生、時計修理会社、時計メーカー、時計店勤務者、個人の時計技能者と、年齢制限なく幅広い層の時計技能者が集い、日本一を目指して日頃の技能を競う大会は、ここ数年間、日本の時計発祥の地である滋賀県・近江勧学館で開催されてきましたが、長野技能五輪で24年ぶりに「時計修理職種」が復活開催されるに当たり、記念プレ大会として長野県での開催となりました。
今大会には、メカ時計・クオーツ時計を仕上げる第一部門に34名、クオーツ時計のみを仕上げる第二部門に14名、計48名の選手が参加し、そのうち長野大会出場に向けて技能向上に励んでいる育成選手19名がベテラン時計技能者に混じって大会に挑戦しました。第一部門の競技課題は、長野技能五輪の競技内容と同じ7時間でメカ時計・クオーツ時計を仕上げるというもの。育成選手は、技能五輪本番を想定しての挑戦となりました。
大会概要
主催:全日本時計宝飾眼鏡小売協同組合(略称:JOW・JAPAN)
※全日本時計宝飾眼鏡商業協同組合連合会組合(略称:全時連)から組織変更により、全日本時計宝飾眼鏡小売協同組合(略称:JOW・JAPAN)に名称を改め。
後援:厚生労働省、中央職業能力開発協会、一般社団法人日本時計協会、長野県長野技能五輪・アビリンピック2012推進協議会
競技部門:第一部門(メカ時計・クオーツ時計)競技時間7時間、第二部門(クオーツ時計)競技時間3時間
過去の技能五輪国際大会「時計部門」は、機械式時計の複雑機構を修理するといういまの技能検定1級レベルの技能者でも難易度の高い競技内容だったそう。
どんな時計も長く使っていると部品の磨耗や潤滑油の劣化、金属疲労が起こり故障の原因になります。それを防ぐために行われるのがオーバーホールという定期的な分解掃除のメンテナンス作業です。このような時計の不具合を探し出し、オーバーホールを行うという長く使える時計のために欠かせない技能を競うのが時計修理職種です。
競技時間は7時間。それぞれあらかじめ5箇所の不具合を設定したメカ時計・クオーツ時計を、時間内に分解・修理し、洗浄、組立、注油、調整、測定を行い、きちんと精度が出る機能状態に戻す技能、そして完成までのスピードを競います。
競技では、トラブル箇所を素早く見つけ出すのはもちろんのこと、配布される展開図に示された箇所に指示通り注油できているか、部品はきれいに洗われているか、精度はきちんと出ているのかが審査されます。ゆっくり時間をかけて丁寧に行えばできる作業も、更にスピードが要求されます。
直径約3センチほどの腕時計製品の中に納められた部品は150個以上。小さなものでは1ミクロン単位の部品をばらし、キズミ(目に装着して使用するルーペ)や双眼顕微鏡、ピンセットなどの道具を用いて調整をしていく-その繊細な作業は、みているこちらも吐く息にすら気を遣うほど。思った通りの場所にわずか数ミリしかない部品をぴたりとスムーズに納めて、精度のある美しい時計をスピーディー仕上げるためには、どのような訓練が必要なのでしょうか?
運営・主査委員補佐のセイコーエプソン竹岡一男さんは言います。「思った通りに指先を動かしてつくっていくという部分では他の職種も同じことですが、時計の仕事は確かに繊細な作業ではあります。作業を進める中で、自分の思った通りに手が動いて、普段やっている通りの段取りで作業が進められること。いかに自分に身につけるか、自分をコントロールできるか、それが一番大事なことです。」
ご自身も、過去の技能五輪国際大会に出場し日本人初の金メダルを受賞された経験を持つ竹岡さんですが、当時の訓練では、訓練生皆で毎週お茶を習い、作法を学び平常心を養う訓練を行ったこともあるそうです。何回も繰り返し訓練を行い、ぶれない心とぶれない作業、一発勝負の競技の中で平常心を保てる精神力を養うこと。「どこまで身につけるか、それが結果につながる。時間じゃなくいかに濃く自分のものになったかが一番大切なことなのです。」集中的に基礎訓練を重ねる中で、身体を鍛錬し、精神を磨く重要性を語ってくれました。
訓練生は、オーバーホールの作業を繰り返し行うなどの基礎訓練を行い、大会に向けて切磋琢磨する日々です。そんな中でも、時計修理の喜びに出会う瞬間があるそう。第24回時計技能競技全国大会 第一部門で技能賞を獲得したセイコーエプソン西中卓也さんは、「時計は油汚れやゴミケバがない状態に仕上がっていると、(蓋を開けた中が)とてもきれいに光るんです。きれいな時計ができた時が一番嬉しい。」技能を身につけるだけでない、時計を愛し、良品を生むことに喜びを見いだす時計技能者が着実に育ってきているのだと感じられる瞬間でした。
高い技能で競う目標があれば、若い人が育つ場となり、時計技能者、そして日本の技能全体の底上げにつながる。何より訓練をするこの期間を通して、個々の人間力が育っていく場となっていくのでしょう。
時計修理職種は、長野技能五輪ではデモンストレーション競技としての開催となりますが、今後、正式職種として日本のみならず国際的にも脚光を浴びる競技になっていってほしいという願いもあるそうです。それだけに、世界を睨んで、過去の技能五輪国際大会の課題を想定したハイレベルな競技課題が予定されており、注目の競技になることは間違いありません。