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自分×世界

日信工業株式会社
寺島 優(入社3年)

世界有数のブレーキメーカー

カーテクノロジーは、より速く、よりスムーズに、より安全な走りを追求して、現在まで進化を続けてきた。中でも重要な要素である「安全」に深く関わるのが、「制動」=ブレーキに関する技術だ。
長野県上田市にある「日信工業」は、四輪用・二輪用のブレーキシステムの研究開発において常に世界をリードしてきたメーカーだ。自家用車からレーシングカーまで広く浸透しており、「NISSIN」というロゴを目にした事がある人も多いだろう。中でも、二輪車用の製品は、世界で6割もの大きなシェアを誇っている。会社創業以来培ってきた、アルミ鋳造と切削加工技術が世界の自動車を守っているのだ。
工場は上田市と東御市、新潟県の上越市にあり、取材させて頂いた寺島さんは、東御市にある長野開発センターの生産技術部でブレーキパーツの試作品の切削加工を担当している若手技術者。仕事に就いた経緯と、現在の仕事内容、そこに込めた想いを聞いた。


全ての製品には作り手がいる

「ドアノブ、アルミサッシなど、日頃私たちが何気なく目にしている工業製品がありますよね。当然ですが、全てに作り手がいて、様々な技術が注がれています。そういう生活に必要な物を、自分の手で作りたいと思っていました」。
幼い頃からそういった想いを持ち続けてきた寺島さんは、工業高校を卒業後、金沢工業大学の機械科に進学、切削加工のプログラミングを学んだ。
「中学生の頃は、鉄とアルミぐらいしか区別できなかった。勉強を続けていくと、ステンレスにも色々な種類があることや、例えばなぜ医療用インプラントにはチタンが使われるのか…なんかがわかるようになったんです。多くの知識を得て、素材選択の合理性を理解していくのがとても楽しかったです」と、寺島さんは学生時代を振り返る。そして、日本の物づくりの歴史の結晶とも言える自動車への憧れから、寺島さんは日信工業への入社を決意した。


五感を使って技術を身につける

切削時にできる「バリ」を取る作業。一つ一つヤスリでそぎ落とし、エアスプレーを使って仕上げる。

寺島さんが所属している、「生産技術部 加工ブロック」に案内していただいた。様々な加工用機械が整然と並び、金属が擦れあう甲高い音が響いている。ここは2年、3年先の量産に向けた四輪用・二輪用ブレーキパーツの、「試作品」開発と、加工に必要な設備の設計も行っている、日信工業の技術の粋が詰まった部署だ。ここで寺島さんは先輩の指導の下、マシニングセンタ(※)を使って切削加工を担当している。
作業は、開発部から送られてきたパーツの図面をじっくりと観て、頭の中にその具体的な形状や加工法、加工の手順について考えを巡らせるところから始まる。イメージが固まったら、素材を固定する「治具(じぐ)」を選択し、超硬度金属で作られた刃物の回転数と、「送り速度」(移動速度)をプログラムする。材質や削り方に合ったものを選ばなければ、高価な刃も簡単に折れてしまう。中には、そのパーツのためだけに作った一本限りのものもあり、壊したら作業が全体がストップしてしまう。経験に基づく慎重な判断が必要だ。
ブレーキの中心部分である、油圧装置のピストン部分などは、1/1000ミリメートル単位の正確さが要求される。目視するだけではなく、工作機械の発する振動、音、匂い、熱、に対して五感をフル稼働させなければ、安全で効率の良い切削は出来ない。
上司の酒井さんは、「何をやってもうまくいかない状態であっても、ほうっておきます。こうやれば上手くできる、という指導は一切しません」という。「納期に間に合うか間に合わないかのギリギリまで、本人に任せています。自分の感覚で得たものが一番大事ですから」。その言葉を聞いて、寺島さんは照れ混じりの笑顔を浮かべた。上司の信頼を得て、一歩一歩技術を獲得している現在の仕事に、大きなやり甲斐を感じているようだ。

※マシニングセンタ・・・マシニングセンタは、様々な形状の刃物を回転させ、素材に当てて切削することで、目的の形状に加工する工作機械。


世界を意識すること

仕上がったパーツが図面の通りにできているか、上司の酒井さんと検査中。「将来的には、自分で検査もこなしたい」と寺島さん。

開発の仕事は、時間とコストとの戦いだ。日々新しい図面が届けられるが、実際に加工を行ってみないと、それが製作可能なものなのか解らない場合もある。ハイブリッドカーや電気自動車など、環境に配慮した製品のニーズにともなって、次々と新しい技術が生み出されている。ブレーキパーツにもまた、燃費向上のための小型・軽量化、安全性の強化といったさらなる課題が課されている。寺島さんら新しい世代の技術者には、時代の要求に応え、今までになかった新しい製品を生み出すクリエーターとしての役割も期待されている。
現在、日信工業の連結売上高のうち七割は国外にあるそうだ。「“世界”を意識することはありますか?」と質問したところ、「自分の作っているものが、世界の何処かで使われているイメージを常に持っています」と力強く寺島さんは答えてくれた。「まだまだ経験が足りないですね、今は試作を担当していますが、量産の立ち上げにも関わってみたいです」


ブレーキの試作品開発の仕事とは?

開発部からの依頼された図面に基づいて、マシニングセンタやフライス盤などの切削機械を使い、試作品を作る仕事。切削加工においては、金属素材に関する知識、図面を正確に理解し頭の中で作業の行程を描き出す、理論的思考が重要である。また、切削機械がどのような挙動をしているか、五感を使って判断する、経験に基づく感覚的知識も身につけなければならないだろう。
自動車業界において急務の命題である、「燃費の向上」と「環境への負荷軽減」。ブレーキパーツの開発はこの命題に、新素材の開発、パーツの小型・軽量化を通じて取り組んでいる。安全性を落とすことなく、自動車の走りの進化に答えていく。あるいは、ブレーキパーツの進化が、自動車の走りを変えていく。ブレーキの試作品開発は、自動車業界の未来を支える、創造性に富んだ仕事だ。


社名 日信工業株式会社 (NISSIN KOGYO CO., LTD.)
代表者 窪 明弘
設立 1953年10月
事業内容 四輪車及び二輪車向けブレーキ装置及びアルミ製品等の開発、製造、販売
従業員 2,208人(単独) 8,167人(連結) (2010年3月期)
資本金 36億94百万円 (2010年3月期)
住所 〒386-8505 長野県上田市国分840
TEL 0268-24-3111
URL http://www.nissinkogyo.co.jp/